食材を知る旅(5) ~1989年冬の始まり。トーマスとモニカの兄妹に寄せて(前編)~

1989年冬の始まり。トーマスとモニカの兄妹に寄せて(前編)

テレビや報道を通して伝えられるその出来事は本当に衝撃的でした。

世界史史上、とても重要な一幕を我々は目の当たりにしているのだ!

というあの熱気!

まさに28年間に及ぶ東ドイツ国民という人質は、血を流すことなく解放されたのです。

これが1989年11月9日のベルリンの壁崩壊

この事件は全くもって突然に世界にセンセーショナルに報道されました。

そもそも世界中の人たちは誰一人として「ベルリンの壁崩壊」が、今まさに目の前で実現するとは思いもしなかったでしょう。

それどころか、当の東ドイツ(ドイツ民主共和国)の指導者ですら、その事件の数時間前まではまさかこんな結末を迎えようとは・・・

そうして今、長い従属の日々にあった旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)の人々と西ベルリンの人々が手をとりあって、ブランデンブルク門の壁に登り雄叫びを挙げます。

誰彼かまわず抱擁を交わし、涙する人。

「反ファシズムの防壁」から鑿(ノミ)と金槌で壁を抜きとる人。

シャンパンのコルクが飛ぶ音が歓声に混じって夜の静寂に溶けていきます。

お針子さんから肉屋のマイスターから皆、歓喜します。

しばらくの間、ベルリンの壁崩壊の狂騒曲で湧きました。

でも日本にいて我々が想像した「ベルリンの壁崩壊」は、あくまでも西側から見た報道でしかなかったのではないか?

時の経過とともに「東ドイツ時代」をある種の郷愁の眼差しで懐かしんだ人たちもいた事を、きちんと確認しておかねばならないような気がするのです。

映画「グッバイ、レーニン!」(2003年公開 監督ヴォルフガング・ベッカー)を知っていますか?

旧東ベルリン地域に暮らす一家の、ちょっと感動ありのコメディ物語り。

主人公はダニエル・ブリュールという俳優さんが演じるアレックスという少年。

彼の母親は「壁崩壊」の前に心臓発作で昏睡状態に陥ります。

ようやく一命はとりとめたものの、医師からは「今度ショックを与えるような事があれば命は危ういかも知れない・・・」と告げられるのです。

彼の母親は東ドイツ国民であることを誇りにしています。

そんな母が「旧東ドイツ体制は崩壊した」事を知ると大変なことになります。

だからアレックスは友人たちとも協力して、「東ドイツの体制」は未だ安泰なのだと・・・

涙ぐましい演出で何とか母をだまして安心させようとするのです。

でも近所のスーパーマーケットまで買い物へいけば、西側から入って来たコカ・コーラをはじめとする今までお見掛けしたことのない商品で溢れかえっています。

だから母は「旧東ドイツ体制の崩壊」に薄々気が付き始めます。

でも自分の事を思って、“「東ドイツ社会」は安泰・・・”を演じてくれる息子やその友人たちの事を考え、騙されているふりをするのですよ。

そんなアレックスの母にこんな台詞があります。

「私はあの東ドイツ時代のなつかしいピクルスが食べたい・・・」

アレックスは母のために、あのピクルスを街のスーパーで探しまわるのですが、どのお店も西側から入って来た商品で溢れかえり、あのなつかしき味のピクルスは見つけだせないのです。

ベルリンの壁崩壊以後に、旧東ドイツに暮らした人々が資本主義経済の中で出会ってびっくりした事、羨望の眼差しで見つめたもの。

それは様々あることでしょう。

「グッバイ、レーニン!」の映画の中でも、主人公のアレックスがいわゆるお色気ショップ!みたいな場所へ初めて行って、ものすごい驚きを隠せなかったシーンが出てきました。

実際に旧東ドイツに暮らした男性諸氏の中には、そのテの書籍だとか映像だとかを販売するお店に押し寄せ、時々、長蛇の列!(えっ?笑)そんな人もいたのだとか・・・

成人した大人がですよ・・・。

旧東ドイツの人たちは、西側から入ってくる食料品や嗜好品の中でどんなものに関心を寄せたのか?

まずはハリボ~。つまりはグミ

ドイツの方は総じてグミが大好きで、ドイツへ行くご機会がありましたならぜひ食料品店へ行ってグミコーナーをご覧ください。

その品数の多さたるや!

すごいですよ~。

「グミなしでは生きていけない!」

本気でそんな事を言う人がいるのですよ。

それからコーヒー

旧東ドイツ地域にもコーヒーは存在したのですが、その品質たるや「紛い物」に近いくらい劣悪だったんですって。

東ドイツのコーヒーって原料は何を使ったのだろう?

それを言うとおぞましい気持ちになりますから言わない事にします。

それからそれからバナナ!えっ!なんで?

続きはまた今度、お話しさせていただきます。

《つづく》