食材を知る旅(3) ~道化師たちの食卓~
道化師たちの食卓
「遠き国より遥々とネカー河の懐かしき。
岸に来ませるわが君へ。
いまぞ捧げんこの春の。
いと麗しき飾りつけ。
いざ入りませわが家へ。
何れ去ります日もあらば忍び賜れ若き日の。
ハイデルベルクの学び舎で楽しき日々のおもいでを。」
こんな古式ゆかしき歌をご存じでしょうか。
ドイツの作家 マイヤー・フェルスターの作品、アルト・ハイデルベルグのお芝居の一節なのです。
ドイツという国は、ヨーロッパ中世~近世にかけて築城されたお城が数多く残り、文化財として保護されているものや、あるいは現在でも侯爵家の血族の方々が所有しているものもあるのだそうですよ。
日本の時代でいえばおおよそ平安末期から鎌倉時代の後半あたりでしょうか。
戦(いくさ)のために数多くのお城が築城されたのですね。
そんな数多くのお城の中、学生の街ハイデルベルクの古城が、ケーニヒス・シュトゥール山の懐に佇んでいます。
当地を訪問する年間の宿泊客がおおよそ80万人(コロナ禍に入る前の数値)ということだから人気の観光地です。
戯曲家(お芝居の台本を書く職業)ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだって、何度もこの地を訪れて他人様の奥様と幾度となくロマンスを交わしたし、日本からは画家 東山魁夷も、ネカー河にかかる橋のたもとから古城をスケッチいたしましたよ。
さてそんな旧市街を後に、ハイデルベルクの古城を目指しましょう。
旧市街から見る古城は何とも朽ち果てて憂いな感じ。
こんなお姿になってしまったのは、当時のフランス・ブルボン王室との相続争いがもとで戦争(1698年プファルツ継承戦争)に発展してしまった結果なのです。
では古城に足を踏み入れてまいりましょう。
みなさんを出迎えてくれるのはこんな人。
お名前をホフナー・ペルケオというそうですよ。
お城の中には様々な役割の人がいました。
いざ出陣という時のための騎士もいれば、侯爵の食卓に花を添える楽師たち。
そんなのに交じって「宮廷道化師」なるものがいたのですよ。
どんな役割を担っていたのかといいますと、奇術を披露したり物語を読みきかせたり、いわば貴族や王族のためのエンターティナーとも言えるのです。
ホフナーというお名前はゲルマン・ドイツ語圏のお名前だけれど、ペルケオとは官能的な響きを持つラテン世界のイタリアのお名前。
どうやらイタリアとの国境に近いところが出自のようです。
そうしてこのお城の葡萄酒の大樽の管理人(番人)として雇われたそうです。
では「道化師たちの食卓」。
どんなものを好きこのんで召し上がったか?
それは葡萄酒。
もうとにかく葡萄酒が大好きで何せお給付はすべて葡萄酒だったとか?
お給料は現物支給?
小人のペルケオ君、誠に天職ですね。
旅の土地の古いお城や宮廷の隅々まで観察すればそんな宮廷道化師たちにきっと出会えるのですよ。
彼らは無類のいたずら好きでもありましたから、隙を見せるとあなたの背後からそ~っと足音忍ばせ近寄ってきて、いたずらするチャンスを伺っているかもしれませんよ。
次回は、南イタリアの道化師プルチネッラについて記載しようと思います。
《つづく》