食材を知る旅(2) ~あなたとならパンと玉ねぎ~
あなたとならパンと玉ねぎ
皆様、イベリア半島の大半を占めるあの国。スペイン。
スペインという国には古くからこんな求愛の言葉が存在するのをご存じですか?
“ Contigo pan y cebolla.”(コンティーゴ・パン・ィ・セボジャ)
あなたとならパンと玉ねぎ
意味は、「あなたと一緒ならパンと玉ねぎだけの貧しい生活でも十分幸せ」となり、意中の殿方や姫君に“あなたと暮らしを共にしたい”と打ち明ける人生最大のハイライト場面?のためのとっておきのフレーズなのですよ。
えっ?
でも何故、パンと玉ねぎ?
それは、パンと玉ねぎはスペイン人の食生活に片時も離せない存在のものだから・・・
だから、“私とあなたはきっときっとパンと玉ねぎのように切り離せない関係”というわけなのです。
パンと人々は気が遠くなるくらい長い時間のおつきあいを育んできたのであって、人類がパンを食べていた一番古い記録は古代エジプトまで遡るそうですよ。
ということはおおよそ3500年くらい昔?
随分と長いおつきあいなのですね。
欧州を旅して、日々の食卓でパンをかじる度、思うことがあります。
それは、
日本の食卓において、パンの賞味期限は欧州のそれと比べて遥かに短い・・
それと香ばしさがちょっと違う・・・
取り巻く環境や湿度や水質も異なるから違って当然だろうけど・・・
でもですね、欧州の暮らしでは時間が経って固~くなったパンは簡単には捨てない!
ではどうするか?
スープに浸して食べるんですよ。
スープに浸しても歯が立たないくらい固くなったらどうします?
捨てます?
いいえ、お知り合いに油絵を描くご友人がいたなら差し上げてください。
油絵(油彩画)の下描きは墨鉛筆みたいなもので描くから、修正したい時に消しゴムでは消せないのですよ。
そんな時は固~くなったパンが消しゴム代わりに最適!
ほ~らパンは固くなったからって捨てたらいけないのですよ。
という事。
ではでは、玉ねぎはどうだろう?
スペインは随分と玉ねぎの消費量が多い国。(一人当たりの玉ねぎ消費量が一番多い国はアルバニアで33kg)
ミゲル・デ・セルバンテスの小説、「ドン・キホーテ」を読んだことはありますか?
老騎士ドン・キホーテがサンチョ・パンサを伴ったあの放浪の旅路の最初の一夜の晩餐は、たしかパンのかけらと大蒜と玉ねぎではなかったか?
さて、そんな玉ねぎはどこからイベリアの半島へともたらされたのでしょうか?
答えは、アフリカ大陸から入植したイスラムの教えに導かれた人たち。
イスラム教の人たちがイベリア半島に持ち込んだものは玉ねぎだけではないのです。
無花果もオレンジも、それから農地改善のための様々な技術、それどころか遥かに優れた宮殿建築も、イスラムの民がイベリア半島へと持ち込んだのです。
ほうら、食材の影に歴史がちらほら見え隠れしてきたでしょ。
《あなたとならパンと玉ねぎ 完》