ミモザの日 それから修二会の夕べ(2)
皆さんは鹿が鳴く声って聞いたことがありますか?
「きゅうん」って鳴くのですよ。
奈良公園界隈の鹿たちって、いつも何だかわが物顔で道を行くし、時に観光客の鞄の中まで餌を探ったりするのもいるし、凄いですよね。
でも、そんな観光客がたくさんいる時間帯にはあまり鳴かないのですよ。
若草山の稜線がぼやけ始めるような夕暮れ時、公園のあちらこちらに散っていた鹿たちが塒に戻るのだろうか、集まってくるのです。
そんな時、鳴くのですよ。
「きゅうん」って。
仲間を呼んでいるのかな?
夕暮れの中で聞く鹿の鳴き声は、
「鹿ってこんな鳴き方するんだ」
って、ちょっと切ない感じがします。
そんな古都の一日が緩やかに暮れようとする頃、2024年は数えて1237回目の「お水取り」。
お水取りという名称はあくまでも俗にいう言い方で、本来は「修二会(しゅにえ)」という法会を意味します。
「二月堂のお水取りも近うなってきたし、じきに暖こなるで」
って、関西の地元の人たちは日々の挨拶にそんな思いを込めるのです。
「お水取り」の由来は、3月12日のお香水(こうずい)といって二月堂の下から湧き出る若狭井から清水を汲むのです。
これらの役割を勤め、行事のあいだ二月堂に籠るのが練行衆(れんぎょうしゅう)と呼ばれる僧侶たち。
そうしてそのお香水をご本尊にお供えするのです。
この作法から「お水取り」という言葉が来ています。
この修二会という行事の中で、ニュース映像で俄然!フォーカスされるのが“お松明”です。
これは、二月堂の法要へ上堂される練行衆の足元や行く先を照らす灯りでもあります。
そしてこのお松明を抱えるのは、「童子」と呼ばれる練行衆のお世話役の方です。
こちらは籠松明といって、竹の先に松の板と杉の葉を束ねて藤蔓で結わえたもので、重量がおおよそ80kgもあるとのことです。
童子が抱えるお松明が、二月堂の舞台の欄干を火の粉を散らしながら足早にかけていくと、時に「わあ!」って歓声が沸くのです。
そして本当のクライマックスはこれから。
二月堂で練行衆たちがこの世のあらゆる罪を人々に代わり懺悔する行法がおこなわれます。
僧侶たちの声明(しょうみょう)が、深く夜の静寂(しじま)に溶けてゆくのですよ。
この場に行ってお松明の火の粉が散るなかで、あるいは僧侶たちの法会への想いが染みるそんな静寂(しじま)に。
そんな由来を誰かに伝えてみたくないですか?
それもプロ添の仕事のうちのひとつなのです。
現在、奈良国立博物館では特別陳列「お水取り」展(2024年3月17日まで)が開催されています。
ご関心が湧きましたらぜひぜひ。
《終わり》