パトラッシュと歩いたホーボーケンの小径(1)
名作『フランダースの犬』
ベルギーのアントワープという町を舞台にした児童文学作品があります。
日本ではとても有名な作品です。
即座に「フランダースの犬!」と思い浮かびました方、とってもお詳しいですね。
昔、昔、カルピス劇場(古いお話ですみません)で観た、あの涙ながらの最終回を今でも鮮明に記憶している方も多いことでしょう。
アントワープ(アントウェルペン)とは、ベルギーの首都ブリュッセルからは凡そ50kmの距離に位置し、北海に近くかつては交易で栄えたブリュージュからならば100km近く離れている、フランドル地方を代表する商業都市でもあります。
あの名作『フランダースの犬』の“フランダース(英語由来)”とは、“フランドル(フランス語由来)”地方を指します。
この物語を執筆したのは、ウィーダ(本名 マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー。1839年~1908年)というイギリス出身の女性作家です。
『フランダースの犬』は、彼女が1872年に発表した作品です。
物語の中で、ネロ少年とダースお爺さん、それからパトラッシュ。
彼ら二人と一匹が日々の暮らしを送ったのがホーボーケン。
現在でもこのホーボーケンは、アントワープの街からトラム電車でコトコト、線路の軋む音に身を預けたならば20分程度の距離に位置しています。
物語でネロとパトラッシュは、毎朝せっせと絞ったばかりの牛乳を町の市場で売るために運んだのですね。
でも何故、犬が人間たちのお役に立つために働いたのでしょう?
ネロのお家はお金もなかったし、“犬の手”すら借りたかった?
勿論それもあると思います。
でもそれだけではなく、当時のベルギーの社会状況が大きくかかわっています。
20世紀の初め頃のベルギーはとっても貧しかったのですよ。
だから酪農家の人たちも、馬すら飼えなかったのです。
ベルギーの国土は微々たる面積しかなくて、日本で言えば九州よりも少し小さいサイズです。
その直ぐ北にはオランダという、これまた小さいけれど個性的な国が北海に面して控えているでしょ。
かつてはオランダもベルギーもネーデルランド地方(低地地方)と言って、オーストリアのハプスブルク家の領地でありました。
今回は、ネロとパトラッシュがホーボーケンの小径をせっせと牛乳を運んだ、そんな時代から更にザクっと400年ほど昔のネーデルランドにタイムスリップしてみましょう。
日本では、室町時代が終わり安土桃山時代が始まる、そんな時代です。
《つづく》