「かたち」のいたずら。「いろ」のおまじない(2) ~たびさきで出会った絵のお話し~
さて前回からの続きをお話しさせていただきます。
「日本画」と「西洋画」の違いを、もう少し詳しくみてみましょう。
例えば画材の違い。
そもそも絵具の素とはなんでしょう?
わかりやすく申せば、色のついた鉱物を粉末状にしたものです。
こちらの画像は“ラピスラズリ”と言って、アフガニスタンが原産の鉱物です。
ウルトラマリンブルーを表現するときに使用される顔料(絵具)の素となるものです。
こういった鉱物を粉状にして絵具の素としていたのですよ。
勿論、全ての絵具が鉱物であったわけではありません。
植物由来のものもあったし、日本画では胡粉(ごふん)といって貝殻を粉状にしたものもあります。
でも絵具は、圧倒的に鉱物を主力としてきました。
画像に挙げたラピスラズリは欧州にはなかったものだし、高価だったのですよ。
だから西洋美術では、ウルトラマリンブルーの顔料は画中の最も重要な部分にしか使用しなかったのです。
17世紀の画家、バルトロメ・エステバン・ムリーリョが描いた聖母マリアを例にとってみました。
この絵具の素である顔料には接着というものがありません。
だから卵の黄身やアラビア・ゴム、膠(にかわ。動物のたんぱく質をゼラチン状に固めたもの)などを混ぜ合わせて使ってきたのです。
美術館へ行きましたら、作品のすぐそばにあるキャプション(簡単な説明書き)も見ておきましょう。
注意をしてよく見ると、キャプションにも画材の道具について書かれていることがあります。
例えば、先のムリーリョの『アランフエスの聖母』は画布に油彩とありますから、油絵具で画布(キャンバス)を使って描いています。
でも全ての西洋美術作品が油絵でキャンバスを使っているわけではありません。
「パトラッシュと歩いたホボーケンの小径4」で紹介いたしました、ルーベンスが描いた祭壇画は木材をつなぎ合わせた支持体を使っています。
油彩画の技法以外にもテンペラ画といって、一種の水溶き画法も存在します。
では日本画はどうでしょうか?
日本画も同じく、絵具の素材は鉱物を多く使ってきました。
鉱物は地域によってその材質、特徴は様々です。
だから鉱物の地域による違いは、絵の発色の違いをも生み出すのです。
現在、私たちが油絵具を買い求めるならば、おそらくそれはチューブに入ったものを想像しますよね。
絵具を保存するのにチューブ状のアルミニウム容器が使用されるようになったのは1930年代に入ってからの事だから、美術史の中ではずっと後になってからのことなのです。
また、本当の意味での日本画絵具は顔料の粒子の目が粗いので、油絵具のようにはチューブ化できないのですよ。
今日、私たちが美術館で観る油彩画は、その支持体に画布(キャンバス)を使ったものが多くあります。
では日本画の場合、その支持体には何を使っているのでしょう?
紙の素材?確かに日本画は和紙も使います。
それだけではなく、和紙が普及する以前から絹地(絵を描く用の絹素材を絵絹といいます)も使ってきました。
作品の隣にあるキャプションに絹本著色(けんぽんちゃくしょく)と書かれていれば、“絹地の支持体を使い、絵具で彩色した作品です”という意味になります。
“和紙の支持体を使って絵具で彩色した”場合は、紙本著色(しほんちゃくしょく)と書かれます。
そうやって絵の背景を少しでも知ると、美術を観る愉しみも増えるように思うのです。
次回は、神戸市にあります小磯良平記念館を紹介させていただきます。
《つづく》