歌姫 フローリア・トスカとその時代(2) ~歌劇トスカ Libretto「台本」~
歌劇トスカ Libretto「台本」
【主な登場人物】
- フローリア・トスカ 歌手、ヒロイン。声域はソプラノのパート。
- マリオ・カヴァラドッシ トスカの恋人。絵描き。テノールのパート。
- スカルピア ローマ警視庁総監。バリトンのパート。
- アンジェロッティ 政治犯。共和主義者。バスのパート。
【第一幕】
幕が開くと、そこはイタリア・ローマ市内。
聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会内。
暗闇に眼が慣れて参ります。
脱獄した政治犯アンジェロッティが教会に忍びこみ礼拝堂に身を隠す、そんな場面。
この男の逮捕容疑とは何だったのか?
共和主義者という事なのですよ。
共和主義を口に唱えるだけでスカルピア率いる警視庁に逮捕され、牢獄に繋がれたのですよ。
こんな息苦しいローマにも風雲急が告げられます。
ナポレオン・ボナパルトがアルプスの峠をこえてやってくる。
もうすぐだ。長い従属の日々から解放される。
共和主義者たちはローマの町のそこかしこで息を潜めたのです。
そこへカヴァラドッシ登場。
彼は絵描きで、教会から聖女マグダレーナ制作の依頼を受けているのです。
聖女を描く時に、彼はいつも黒髪の恋人トスカを思い描くのです。
カヴァラドッシはここでトスカを想いアリア(独唱曲)「妙なる調和」を歌いだします。
それを見ていた教会守。
聖女のモデルに歌姫とはなんたる不謹慎か!と内心思いながら、「だんな、お昼はもう片付けてよろしいですかい?」昼食の籠を見ると、手もつけていない。
ややしかめっ面で、「いつまでたっても片付けが進まない」と言いたげに教会守が退場。
教会の中がカヴァラドッシひとりになったのを見て、脱獄囚アンジェロッティが礼拝堂から出てきます。
アンジェロッティ 「友よ!」
カヴァラドッシ 「なぜ君がここに!」
カヴァラドッシは彼から脱獄したのを打ち明けられます。
そうして教会の鍵をかけ、誰もいない事を確認してから、やがて追ってくるであろう警視庁から彼をかくまう事を約束します。
もしボナパルトがアルプスを越えられず、オーストリア軍の前に跪くような事があれば、同士とともに彼も同罪です。
そこへ教会の扉を叩く音。
急いでアンジェロッティを礼拝堂に隠し、自分の昼食の籠を持たせます。
教会の重い扉を開けた。
黒髪の恋人トスカだ。
トスカ 「マリオ。どうして鍵を閉めていたの?何だか人がいた気配がするわ。まさかアッタヴァンティ侯爵夫人と密会?」と疑います。
急いでとりなすカヴァラドッシ。
彼女を抱擁し、愛のデュエット(二重唱)「二人の愛の家」を歌い、今夜逢う事を約束します。
とりなしてトスカ退場。
カヴァラドッシ 「もう大丈夫だ。私の恋人は帰ったから出てきたまえ」・・・と言いかけた瞬間。
大砲の音がしました。
アンジェロッティの脱獄が発覚した合図の号砲。
彼ら二人は急いで退散します。
やがてローマ警視庁総監スカルピア男爵とその一行が登場。
教会の隅々まで脱獄囚捜索の手が回されます。
教会守が事情聴取を受けます。
教会守 「へぇ。確かに教会の中は今朝からずっとカヴァラドッシのだんながひとりでマグダレーナ様の祭壇画を仕上げておりましたです。だけどもあっしが用意した昼食を食べないと言っていたはずですが、きれいに平らげてなさる」
これを聞いたスカルピアが不審に思い、昼食の籠に残った指紋が採取されます。
結果、アンジェロッティのそれと一致します。
絵描きカヴァラドッシにも重要参考人として捜索の手が及びます。
そこへ再びトスカ登場。
彼女に今夜、演奏会の予定が急遽入ったのだとか。
だから今夜はカヴァラドッシとは会えない、そう告げに戻ってきたのです。
トスカを見た警視庁総監は 「貴女は?教会にお祈りに来られたのかな?だとしたら稀ですな。教会で密会する男女が多いのに。あの絵描きのカヴァラドッシとアッタヴァンティ侯爵夫人のように(笑)」。と、うそぶく。
これを聞いたトスカ。
強烈に嫉妬し退場。
警視庁総監は部下に、 「彼女の後をつけろ!必ず手掛かりがある!」そう命じます。
スカルピアはこの時、トスカに一目惚れしたというか欲情したのですよ。
そうしてアリア(独唱曲)「行け、トスカ」を歌う。
ボナパルトは蹴散らされる。
イタリアの王体制は安泰なのだ。
悪役スカルピアが見せる悲劇の結末を予兆させる、おぞましいアリアです。
《つづく》